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■前編記事
スマブラプレイヤーHIKARU ドンキーやめるってよ
強くなるためにとんとん拍子で東京へ
――今年の1月に上京されたとのことですが、初めてのEVOのときと同様にご家族を説得する必要があったのではないですか?
HIKARU:
ちょっと込み入った話になるんですけど、僕の両親は離婚していて僕は母親の方について行ったのですが、実際はおばあちゃんと2人で住んでたんですね。
おじいちゃんが亡くなってしまったのでおばあちゃん1人で生活するのは心配だったということで一緒に住んでいたんですけど、あるとき、体も元気だったのでやりたいことやりたいってことで友だちと住むって言い出したんですよ。
――え、おばあちゃんがですか?
HIKARU:
ええ。そしたら、家売るから出てけって言われちゃって。
なので母親のところで住むことになったんですけど、僕がペットが嫌いなことを知ってるのに何も言わずに飼い始めたりするような人でして……。他にも挙げればキリがないくらいウマが合わないんです。
それでブチ切れちゃって家を飛び出して、宅オフとか知り合いの家を1ヵ月くらい転々としてた頃に、東京に来ないかって誘いがきたので、無理やり荷物をまとめて出てきた感じです。
僕が東京にいることは知っているとは思うんですけど、あんまり連絡しないんですよね。
――複雑な事情ですね……。差し支えなければでいいんですが、お父さんとの関係は?
HIKARU:
お父さんとは話しますよ。居酒屋をやってるんですけど、そこでアルバイトさせてもらってました。
僕が通ってた高校は工業高校だったので卒業後は就職するパターンが多いんですけど、就職しないでスマブラをやっていきたいということを話したときも、ある程度の理解はしてくれました。
もちろん僕に安定した仕事に就いてほしかったとは思いますけど、期間を設けてやるならいいんじゃない? って。
大阪に帰ったときには会いに行ったりもするんですけど、応援してくれてはいるみたいで。
――東京に来ることを誘われたのは、今のチームの方から?
HIKARU:
そうですね。
もともとチームをスポンサードしてくれている会社の事務所が大阪にできて、そこに住み始めたんですけど、スマブラSPが発売されたときに東京に2週間くらい滞在したんです。
そこで会社の社長とご飯を食べていたときに「強いやつはみんな東京にいるからこっちにいないと勝てない」って話をしたら、「じゃあこっち住めばいいじゃん」って言ってくれて、事務所の部屋に住まわせてもらってます。
――他の格ゲーでも言われていることですけど、やっぱりプレイヤーとして活動するなら東京の方がいいですか?
HIKARU:
本当にそうで、スマブラWii Uの後期は大阪には僕ともう1人くらいしか強い人がいなくて、それも僕がずっと勝ってるみたいな状態で、いわばお山の大将みたいな感じでした。
ただ、やっぱり誰か教える人がいないと育たないという面もあるじゃないですか?
僕がオフに行き出したときも、強い人たちがいて、そこにいれたから僕も強くなれたので、今度は僕がそういう役目になるのかなって思ってやってた矢先、社長がいきなり部屋も用意してくれたので、考える暇もないうちに東京に来ることが決まりました。
自分のことだけを考えれば東京の方が絶対に強くなれるので来れたことはうれしいですけど、寂しさもありつつ……、大阪の人たちも応援してくれているので励みにしつつ。
――東京だと平日大会の数も多いですし、宅オフも大阪より多いでしょうから練習相手にも困らないでしょうね。オンラインは練習にならないという考えの方も多いと聞きます。
HIKARU:
試合本番に活かせるものではないですね。
ただ、プレイ人口は多いので、対策ができていないキャラの動きを見るのには役立ちます。
僕もドンキーからポケトレに変えたばかりなので、このキャラを相手にしたときドンキーとポケトレではどう違うんだろうって確認できます。
トーク力が不透明な将来を生きるための武器に
――さきほどからちょくちょく話に出てくる社長とはどんな出会いだったんですか?
HIKARU:
僕が大阪でプロになりたいと思ってたときに人づてに出会ったんですけど、プロになるために就職もせずにバイトしかしてない、頭も良いわけでもないからプロしか道がないと話したら、そんな人を探してたと言われて、支援してくれるようになったんです。
住むところも用意してくれてますし、仕事も取ってきてくれていて至れり尽くせりというか、大きい大会でしか結果を残せてないんですけど、会社の会議中にも配信を見てくれてたりして、めちゃくちゃ応援してくれていて。
最初は周りから「大丈夫か?」って心配されましたけど、僕らの意見も同じ目線で聞いてくれる人で、チームとしての基盤もできてきて新しいメンバーも増えましたよ。
こういう発言には気をつけたほうがいいよとかアドバイスもくれる人で、この前は学習塾でプロゲーマーについて話す仕事を持ってきてくれて。
――プロゲーマーの仕事もいろいろ幅広く増えてきましたもんね。
HIKARU:
人前で喋ることが増えましたね。僕、もともと喋るのがめっちゃ好きなんで、ありがたいです。
――話せるというのは重要なスキルですね。
HIKARU:
スマブラでいうとRaitoさんとかも結構気さくに話せて面白いですよね。ポップな感じでめちゃくちゃ好きです。
プロゲーマーになりたいと考えるようなる前は、ぼんやりと話す仕事ができればいいなと考えてました。
お笑い芸人というか芸能人みたいな感じとか、今日はインタビューを受ける側ですけど、逆にインタビューするジャーナリストとかも考えてたり。
今はプロゲーマーとして話す機会もあって全部がうまいこといっていて、どこかで失敗するんじゃないかって不安もなくはないんですよね。
――前例がないから不安に思うところがあるのは想像できます。
HIKARU:
プロゲーマーになれて、東京にも住めて、お給料もいただいて、テレビにも出させてもらって、人前で話せれてっていう至れり尽くせりな環境なんですけど、じゃあここから先は何を目指すんだろうというのはぼんやり考えながらやってます。
――具体的なビジョンはまだ見えてないですか?
HIKARU:
そうですね……、ゲームの開発側にまわるのは1つのルートなのかなって思ってます。他のゲームのプロだとそういう事例があるみたいで。
あとは、あばだんごさんみたいなストリーマーもまた1つのルートかなと思います。そう思いながらYouTubeやりつつって感じですね。
ふんわりと将来が見えていて、そのために今できることをやろうと思ってます。
世界最強だったドンキーにはもう戻らない
――プレイヤーでいる間にこうなりたいみたいな人物像ってありますか?
HIKARU:
あーすさんという今は開発に関わっている人がいるんですけど、スマブラXの頃から強いピット使いのプレイヤーだったんですね。他にも強いピット使いがいたんですけど、段々あーすさんが強くなって勝てるようになっていくのを見て、めちゃくちゃかっけーなって思ったんです。
オフ大会に行ったときに声かけて僕のことも覚えてくれていて、選手として尊敬していて目標だったんですけど、スマブラWii Uの最後のウメブラでその人と対戦になったんですよ。
そこで僕が勝ててめちゃくちゃ嬉しくて、1つの目標を超えれて自信にもなったところでスマブラSPでは開発側になってて……。
スマブラSPの大会では対戦できないし、目標がなくなったような感覚でショックではあったんですけど、その人がそういう立場になることが考えさせられるものがあって、自分もそっち方向で考えろってことなのかなって。
今でも話したりして人として尊敬もしている人ですね。プレイスタイルは真逆なんですけど(笑)。
――スマブラって今ものすごく注目を集めているタイトルだと思います。Wii Uの頃と比較してプレイヤーとして感じる周りからの視線の違いはありますか?
HIKARU:
もう意味がわからないレベルですよね(笑)。
まさか自分がテレビに出るとは思わなかったし、海外に行けばサインを求められ、闘会議でも求められ……。
iPhoneの裏にサインしてくれっていう子どももいて。
――ケースとかでなくて直に!?
HIKARU:
そうなんです。「ホンマにええんか?」ってなりますよ。近くに親御さんもいたんで「書いちゃって大丈夫ですか?」って確認したりして。
それぐらい子どもからしたらすごい人に見られているのかなって思って、うれしい反面、こそばゆい感じもします(笑)。
――その感覚はわかる気がしますね。では最後になるんですけど、もう使用キャラをドンキーに戻すことはないですか?
HIKARU:
うーん、ないですかね……。
火力がなくて、リーチを押し付けるだけのキャラになっちゃって、ちょっと違うかなって思って。使ってて面白くないんですよ。
あとは単純に強くないというのもあって、戻すことはないですね。
スマブラWii Uで使っていたという貯金である程度は勝ててましたけど、新しいキャラを今のうちに使っておかないといずれ勝てなくなってしまうんで。
今勝てるからって目先の勝ちを取りに行くだけのためにドンキーは使いたくないって感じですね。今勝つのも大事だけど、今後勝てなくなるのは嫌で、ずっと勝ち続けたいしその自信もあるって話も社長にしました。
そのためにも、今はポケモントレーナーでやっていきます。
今勝つのではなく、今後勝ち続けるため。
世界で一番強いドンキーコング使いだったHIKARU選手はその覚悟を持ってキャラ替えを決断した。
直近で大きな大会といえば、EVO 2019が近づいているところ。どれほどまで仕上げられるのか、大舞台での強さと合わせてこの夏注目の選手だ。
写真・大塚まり