15.6 C
Tokyo
木曜日, 11月 26, 2020

パワプロのために引っ越して転職した男――千葉ロッテ下山祐躍【eBASEBALL プロリーグ】 WELLPLAYED JOURNAL【ウェルプレイドジャーナル】

【この記事は約8分で読めます】

インタビュー中に浮かんだのは、プロ野球選手のドキュメンタリー番組。往々にしてこうした番組では、選手本人ではなく家族の存在がクローズアップされる。

茨の道とわかっていながら、夢を追う夫。それを支える妻。

それもプロ野球選手という職業が、活躍に応じて何億円もの年俸が約束される世界だからこその話だろう。現在の日本では、プロゲーマーとプロ野球選手の待遇には大きな開きがある。セカンドキャリアも定着していない世界だ。

しかし千葉ロッテマリーンズ(eBASEBALL プロリーグ)代表の下山祐躍選手(プレイヤー名「スンスケ」)は、eBASEBALL プロリーグのために仕事も住居も変えた。

転職や引っ越しをしてまで成し遂げたい夢がある人は、いったいどれだけいるだろう。そして、そんなパートナーの決断に連れ添える人が、どれだけいるだろう。

まさに、“e”野球バカ一代。

まだ下山選手の旅路は始まったばかり。彼の軌跡と展望に触れてみてほしい。

サブマリンに憧れた少年時代

――初めて「実況パワフルプロ野球」をプレイされたのはいつ頃ですか。

下山:
初めてプレイしたのは友達の家で、「実況パワフルプロ野球11」のサクセスモードをやりました。小学校5年生のときです。

――野球が好きでパワプロをプレイされたのでしょうか。

下山:
そうでもなかったですね。野球中継のせいでアニメが観られないのを不満に思うような子どもでした。

――ご自分でパワプロを買おうと思うきっかけはなんだったのでしょう。

下山:
小学校6年生のとき、休み時間に友だちと野球をやり始めて「楽しいな」と思い、中学で野球部に入りました。当時はまだルールもよく知らなかったので、「ゲームで覚えようかな」と思い買ったのがきっかけですね。

――スンスケ選手は現在も草野球を続けていらっしゃいますが、中学生のときから野球にのめり込んだわけですね。

下山:
そうですね。学生の頃は試合に出る回数も少なかったですが、どこかで必ず印象的な場面がありました。監督の荷物を持ったら「今日は4番で」と言われたり、高校野球の最終打席がしびれる場面での代打だったり。「野球ってやっぱり楽しいな」と思うんです。当時はベンチに入るのが精一杯だった分、今草野球でがんばってます。

――その草野球チームが「PAWABACS(パワバックス)」。これは昨年のeBASEBALL プロリーグをきっかけに結成されたチームなのでしょうか。

下山:
いくつか結成の理由があるんですが、周りから「パワプロばっかりやって、実際の野球はできないんだろ」と言われるのが、めっちゃ悔しいんですよ。その反骨精神というか。

あと、パワプロにはコミュニティがなかったことも大きいです。今までは「何日に○○○の家に行くね」といった、個別のつながりしかなくて。コミュニティを作ることによって、パワプロの技術の共有もできます。

でも、eBASEBALL プロリーグのプロを育成するためのチームではありません。メンバーにもプロを目指して今年のプロテストに参加する人がいましたが、「みんなライバルだからチームメイトでも、なあなあの関係はダメだよ」と伝えています。

――しっかりとした線引きがあるのですね。

下山:
予選会の日も会場で立ち会ったのですが、やはりメンバーが「スンさん、聞いてくださいよ」と来るわけです。そのときも「そこは自分たちでなんとかしろ。自分は(球団と継続契約を結んでいる)関係者だから言えることはないよ」と割り切りました。

――下山選手が昨シーズンを戦い抜いたからこそ、伝えられるプロ意識ですね。

下山:
毎日自分を追い込んで、疲れて、でもパワプロの練習をしなくちゃいけなくて……つらい思いをすることは少なくありませんから。

――現在のパワプロのプレイスタイルは、野球経験から来たものなのでしょうか。

下山:
僕はよく考えるタイプで、打席に立ってもずっと相手の配球を考えています。それはそのままパワプロに反映していますね。

――下山選手といえばマリーンズ一筋ですが、中学生のころにマリーンズファンになるきっかけがあったとか。

下山:
初めてプロ野球を観に行ったのが中学生のときで、父親が「野球を始めたならマリンスタジアムに行こうか」と連れて行ってくれました。ちょうど「マリーンズの応援がすごい」と盛り上がり始めていた時期で、テレビでは感じられない躍動感やパフォーマンスに「かっこいいな!」と思って。そこからは自分でも球場に通うようになりました。

――「スンスケ」というプレイヤーネームも、渡辺俊介氏に憧れてとうかがいました。

下山:
初めて観に行った試合で、完投勝利したのが渡辺俊介さんだったんです。あのアンダースローを見て、人にはないものを持ってるってすごいなと思って。一番好きな憧れの選手でした。

だからパワプロでサクセスモードをプレイしても、ずっとアンダースローの投手ばかり作ってました(笑)。変化球もカーブ、スライダー、シンカーに絞って。アンダースローの投手が投げられない球種を習得するのは邪道だ! って。

――下山選手の背番号31番も渡辺俊介氏の背番号とのことですが、実はもう1つ意味があるとか。

下山:
娘の誕生日です。昨シーズンのことですが、背番号を「31番で」と申請したあとに31日に生まれました。奇跡ですよね(笑)。

引っ越しも、転職も、パワプロのために

――以前清野敏稀選手(プレイヤー名「イッキー」:eBASEBALL プロリーグ 千葉ロッテマリーンズ代表)にお話をうかがった際、「昨年のマリーンズはオフラインでの練習が足りなかった」と反省点を挙げられていました。

下山:
それは常々思いましたね。僕もチームメイトとオフライン練習をしやすい環境を作るために、引っ越しをしました。継続契約が決まった清野選手とは、同じチームでプレイできることが確定していたので。千葉に住んでいる頃は彼の家まで2時間かかりましたが、今は40分ほどで着くようになりました。

――下山選手が引っ越しをされたのはTwitterでも明かされていましたが……eBASEBALL プロリーグのための引っ越しだったのですか。

下山:
そうです。eBASEBALL プロリーグのために転職もしました。

――転職の理由もそうだったのですか!

下山:
前は地元のフィットネスジムで、インストラクターをしていました。仕事は楽しかったですし、生活リズムもできているので続けたかったですが、毎週土曜または日曜の試合に出場するには厳しくて。土日休みの職場を条件に、転職活動をしました。

――下山選手はご結婚をされている上に、小さなお子さんもいる環境ですよね。

下山:
そうですね。昨年の開幕の1週間前に生まれた子なので、ちょうど1歳です。

――そもそもの話なのですが、昨シーズンの開幕戦とお子さんの出産予定日が近いことは事前にわかるわけですよね。奥様からeBASEBALL プロリーグへの参加を反対されませんでしたか。

下山:
嫁さんからはプロを目指す前から、「勝てるんだったら戦ってこい」と言ってもらっていて。

――寛大な奥様ですね……。

下山:
2年前の話になるのですが、2017年の「パワプロチャンピオンシップス東京大会 マリーンズ代表決定戦」で、清野選手さんに7対0でコールド負けしているんですよ。僕はその大会、2016年のマリーンズチャンピオンとして参加していたので、下馬評では優勝候補の本命といわれていたんです。

それで僕が負けてフラフラと家に帰ったら、当時同棲していた嫁さんが「負けると思わなかった。私がじゃまをしたからだ」と号泣し始めてしまって。

というのも、嫁さんも僕が優勝することを疑っていなくて、大会の前も「ゲームばかりしないで構って」と練習中に話しかけてきたりしてたんです。僕もそれに「うるせえ」と返して、喧嘩することもあって。

――ドラマのようなエピソードですね。

下山:
そんなこともあって、昨年eBASEBALL プロリーグの開催が決まったときに「挑戦していいの?」と聞いたら、「勝てるんでしょ? じゃあ行ってきなさい」と言ってくれて。

――ただその後、出産予定日と開幕戦が近いことがわかるわけですか。

下山:
出産予定日が開幕戦とドンピシャでした(笑)。奥さんからは「出産の立ち会いだけは来て」と言われたので、僕も徹夜で試合に臨む覚悟はして。

それで娘は開幕の1週間前に生まれてきてくれたわけなんですけど、僕がやらかして出産立ち会いはできていなくて……。

――その話の流れだと、何の問題もなさそうですが。

下山:
実は朝の4:00くらいまで各選手の投球データを取っていて……目が覚めたら20件くらい着信があって。確認したら「生まれたよ」と。嫁さんは里帰り出産だったので、慌てて平謝りしながら病院に向かいました。

――庇うわけではないですが、動画サイトに上がっている過去の大会から1人ひとり配球や傾向を洗い出すというのは、途方も無い作業ですよね。

下山:
当時はツールなども持っていなかったので、1人4時間くらいは掛かりましたね。Wordに画像を貼って確認していくような作業を続けていました。仕事から帰ってきて、練習して、疲れを感じたらデータ作りを始めて。睡眠時間は2時間ほどでした。

――話を少し戻しますが、大敗を喫した清野選手とeBASEBALL プロリーグではチームメイトとなるわけですから縁を感じますね。

下山:
当時、マリーンズを使いこなせていると唯一認めていたのが清野選手でした。彼がいれば優勝できると、心の底から信じていました。

――失礼な質問となりますが、昨シーズンの希望球団をマリーンズとすることにためらいはありませんでしたか。マリーンズは明らかに打力が弱く、ライオンズなどと比べれば厳しい戦いを強いられることは下山選手が一番理解していたと思います。

下山:
大変な戦いになるとは思っていましたが、全然ためらいはなかったですね。オンラインで試合をしていても、当時の最強チームの1つだったホークスなどにも普通に勝てたので。だからeBASEBALL プロリーグでも勝てると思っていましたね。

また、今までのパワプロの大会は1回勝負でしたが、eBASEBALL プロリーグはペナントレース方式なので1回負けても終わりではありません。勝ち越しを狙う戦い方をすればいいと考えていました。今となっては、ポジティブすぎる考え方だったんですけど。

――プロ野球のペナントレースにおける「カードごとで勝ち越しを続けていれば、優勝できる」戦い方ですね。ライオンズがあんな優勝の仕方をするとは予想できませんからね。

下山:
清野選手とは「2人で10勝すっか」なんて話してましたけど(笑)。


本格的にパワプロの競技シーンが発足してまだ2年目。下山選手は、住居を移し、転職もしてeBASEBALL プロリーグへと挑む。

その原動力はいったい何なのか。

後編では、下山選手がeBASEBALL プロリーグへ取り組むにあたっての意識にフォーカスしていく。

写真・大塚まり

Related Articles