欧州最大規模の映画祭「レインダンス」 出展VR作品に見る創作表現の未来とは? – MoguLive

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英国のレインダンス映画祭が今年も始まりました。会期は2022年11月26日まで。1992年に設立され、30年の歴史を誇る欧州でも最大規模の映画祭です。

本映画祭にVR/MRコンテンツを対象としたレインダンス・イマーシヴ賞という部門ができてから今年で7年が経ちます。イマーシヴ(immersive)という単語は「没入」という意味。スクリーンやモニターで見る従来の映画体験とは分けて評価が試みられているのです。

さて、レインダンス・イマーシヴ賞は毎年、試行錯誤を繰り返しており、部門の数やカテゴリ分けはその年によって変わっています。

今年は「体験(エクスペリエンス)」「ゲーム」「ワールド」「パフォーマンス」「ソーシャル・インパクト」「デビュー」の6部門があります。候補作から審査委員たちが受賞作を決定します。候補作のプラットフォームはVIVEPORT、VRChat、STEAM、それ以外が混在しています(有料と無料も混在しているのでご注意ください)。

今回はこの映画祭のオープニングイベントや作品を体験してきたので、関係者たちの声も交えつつ、レポートしていきます。

メタバースならでは! オープニングに集まる多様なVRChatユーザーたち

10月29日の日本時間午前2時から5時にかけて、VRChat内では本賞のオープニングイベントが開催されました。

司会と案内役を務めたのは、本賞に立ち上げから一貫して携わってきたマリアさん(ご本業もVR関係メーカー)と、英国の大学で映画を専攻し、オールVRChat内撮影の長編ドキュメンタリー「We Met in Virtual Reality」を監督したジョー・ハンティングさんのおふたりです。


(左からMariaさん、Joe Huntingさん)

筆者もマリアさんから誘っていただいて、個人でオープニングイベントに参加しました。
オープニングは交流会、記念撮影、スピーチを何度かくりかえしながら進行し、候補作の音楽ライブパフォーマンスも実施されました。

数十人の参加者の肩書きはクリエーター、エンジニア、ジャーナリスト、イベントオーガナイザーの他、ダンサーや配信者など様々でした。賞の候補者や審査員の姿も見えました。


(参加者のアバターも多様です)

欧州と北米の居住者が多いものの、南アフリカ共和国から少なくとも4人、日本在住者も合計4人の参加者がいました。これは本賞の運営側が、なるべく多くのコミュニティを繋ごうとした努力のたまものではと思います。

実際、会期中に東アジアから参加しやすい時間帯にもライブパフォーマンスイベントやクリエイター本人によるワールド内覧会が用意されているタイトルも少なくありません。また、候補作のうち、Treasure Heistは英語・日本語・韓国語に対応済み、Exposureは入口の案内板が英語・スペイン語・日本語に対応しています。

言語の問題で実態やポテンシャルが把握しきれないものの、日本ユーザーは熱心で活発な集団だと思われているのではないでしょうか?

交流会中に、アメリカの人とフランス在住の人がGHOSTCLUBを話題にしていたのも耳にしました。


(イベント開場前、バーチャル路上で雑談する人々)

映画祭キュレーターの語るVRChatコミュニティの魅力

イベント中、レインダンス・イマーシヴ賞のキュレーター(情報の収集、整理、編集をする人。一般的には学芸員の意味)かつ案内役のマリアさんに、本賞の設立経緯をうかがいました(英語訳)。

マリアさんインタビュー

私は2014年からVR業界で働いています。2016年にレインダンス映画祭でVRプロジェクトのキュレーションを始め、この「レインダンス・イマーシヴ賞」を立ち上げました。

私はレインダンスの理念と精神――インディペンデントなクリエイターを支持し、その作品を世に出す助けをする――が大好きです。本映画祭には、若い才能が初めてのVRプロジェクトで躍進するのを助けてきた実績も多々あります。


The Raindance Embassy by mariaku:今年の候補作のポスターがずらりと並ぶ廊下。奥のバーの脇道から候補作のポータルに飛べる)

映画祭は30年前に始まり、レインダンス・イマーシヴ賞は7年前に始まりました。VRChatでの本映画祭の関連イベントの企画運営を始めたのは2020年のことで、このとき、VRChatに「The Raindance Embassy」という仮想大使館のワールドを造りました。

2020年、私はVRChatの創造性と、ワールド制作のコミュニティ、特にPrefabsコミュニティ(筆者注:ワールドやアバターに使えるUnityのアセットやシェーダーを配布しているユーザー主導コミュニティ)に驚嘆しました。Prefabsコミュニティはとても素敵で素晴らしい人たちです。我々がRaindance Embassyを作った時も、たくさんフィードバックして助けてくれました。

この年は「The Devouring」(筆者註:大作ホラーワールド。Lakuza, Legends, Fionna, Cyanlaser4氏の共同製作作品)がリリースされた年で、この作品を賞候補に選出しています。また、VRChatのコミュニティ活動にとても感銘を受けたので、VRChatのワールドとクリエイターを表彰するために「ワールド部門」を新設しました。

「The Devouring」はVRChatを知らない人たちにもVRChatの素晴らしさと、VRChatというプラットフォームでの創作の可能性を証明する、素晴らしいプロジェクトだと感じました。「The Devouring」は最終的にワールド部門とゲーム部門の2部門で受賞しました。審査員たちも非常に感銘を受けていました。


(The Devouring by Lakuza:ドライブ中、黒い影に襲われたプレイヤーは気がつくと知らない邸宅に運びこまれていて……屋敷をさまよう冒険行が始まる)

私たちはVRChatコミュニティを愛しています。

皆さん本当に映画祭を楽しんでくれますし、VRChatは私たちにとって理想の居場所です。個人的には、リアルで映画祭のイベントを運営するときよりもVRChatで運営するときのほうが好きです。特にパーティーをやるときはとっても楽しいですね。

また、私たちはアバターが好きです。アバターは、特に授賞式の際に特別な雰囲気を作り出しますし、それがまたレインダンス映画祭のムードに合っていているんです。多くのアバターが派手な衣装やタキシードに着替え、バーチャル・レッド・カーペットを歩いてくると、すごく現場をリアルに感じさせてくれます。

VRChatで没入型ライブパフォーマンスを行なっている演劇団体からも刺激を受けていますし、ライブを行なうDJやミュージシャンにも敬意を持っています。そこで、こうした才能の認知度を高めるため、パフォーマンス部門を独立させて評価することにしました。

映画祭に出展したVR作品、その傾向は?

レインダンス・イマーシヴ賞の候補作リストはこちらから見られます。どのような部門があるのか、簡単に解説します。

「体験(エクスペリエンス)」部門には、ストーリー性のある動画や音楽PVが主に選ばれています。フランスの電子音楽アーティストであるジャン・ミッシェル・ジャールの最新アルバムの楽曲を体験できる「Oxymore Official World」や、韓国の伝統芸能を観賞できる「Samul」など。ただし、VRChatで謎解きやライド型アトラクションが楽しめる「Treasure Heist – Domains of The Gods」も、この部門にもノミネートされています。


Oxymore Official World by VRrOOm

ゲーム」部門には比較的大規模な、商業ゲーム作品が集まっています。都市建設シミュレーションの「Townscaper VR」や、美麗な景色の中をカヤックで漕いでいく「Kayak VR: Mirage」、日本からはMyDearestとイザナギゲームズが共同開発した「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」がノミネートされています。

「ワールド」部門は前述のとおり、VRChatのワールドが対象です。「Treasure Heist – Domains of The Gods」はこちらにもノミネートされていました。複数人で協力して宇宙船の運行を切り盛りする「Fate of the Irrbloss」、本格派SFホラー「Exposure」、作りこまれた美麗な世界をさまようタイプ「Organism」、「Namuanki」、「Lost Valley Lake Retreat」の他に、メタバースに対するメタ考察の“場”であるらしいサイバーパンク風ワールド「Uncanny Alley」が候補となっています。

「パフォーマンス」部門はライヴパフォーマンス作品で、リアルタイムに上演される演劇や音楽を楽しむ作品群です。残念ながら公演の予約はすでにほぼ満員となっているようですが、追加公演もあり得るので、気になる作品の動向は要チェック。日本からは伊東ケイスケ監督の「Typeman」がノミネートしています。

「デビュー部門」(別名:ディスカバリー賞)は新鋭デベロッパーやクリエイターの作品を対象にしており、今回はVRChat上での音楽パフォーマンスである「The Royal Chamber: Be Not Afraid」を除けば、すべて別部門にもノミネートしている作品でした。
 

娯楽だけじゃない 社会派VRドキュメンタリーの新潮流

さて、残る「ソーシャル・インパクト部門」はその名のとおり、事件や社会問題に焦点を当てた部門です。社会派部門と言えばわかりやすいでしょうか。

これまでは「ドキュメンタリー・エクスペリエンス部門」だったのですが、マリアさんによれば今年のノミネート作品にはSocial good(ソーシャル・グッド:社会や世界に対して良い影響を与えようとする)活動が多かったため、改名したそうです。

なお参考までに、ドキュメンタリー・エクスペリエンス部門の2020年受賞作は、最初期のプロトタイプの飛行機に乗る経験ができる作品「Fly」。2021年受賞作の「Kusunda」は、ネパールで失われかかっている言語・クスンダ語によるアニメーションや話者へのインタビューから構成された作品でした。

さて今年「ソーシャル・インパクト部門」にエントリーしたのは、VRChatで体験できるものとVIVEPORTで観られるものが半々でした。

まず、VRChatの作品から解説します。ロシアのウクライナ侵攻を背景にした作品が2つ。
17歳の少年が助けを借りつつ制作した「Bloodbath by Tim_Vorokin」では、ロシアがウクライナ侵攻の初日に占拠したズミイヌイ島(蛇島)に関連するニュースや動画が展示されています。

簡素な作りのワールドですが、プーチンを支持するロシアの投票結果を収めた投票箱の前に行くと、沖合いの軍艦が正教会風に変形し、赤い星を掲げて血のような海に沈んでいきます。


Bloodbath by Tim_Vorokin:何か所かでウクライナ国歌が流れる趣向もあります)

Stepan’s Rooftop @ Raindance by VRrOOm」は、ウクライナで激しい爆撃を受けた街ハルキウで飼い主と暮らしていた猫のステパンの像があるワールドです。DJライブができるようになっています。ワールド制作者は「Oxymore Official World」も制作されたフランスのVRrOOmさん。猫のステパンは、飼い主のお酒のグラスと一緒に写真に写る姿が注目され、コロナ禍後の2021年に世界的に話題になりました。Twitter、Instagram,、TikTokすべてで100万人以上のフォロワーを抱えるインフルエンサーです。

2022年、ステパンの住む街ハルキウではロシアの爆撃が続き、ステパンは飼い主ともどもポーランドやフランスに一時避難を余儀なくされました。その後、ステパンの影響力を活かし、ウクライナの動物園やペットに関わる募金が行なわれました。イマーシヴ賞の会期中、このワールドで行なわれるVRrOOmさんのDJパーティーは、ステパンを経由した募金を呼びかけるチャリティライブとなっています。


Stepan’s Rooftop @ Raindance by VRrOOm:ステパンとポラロイド写真も撮れます)

もうひとつ、VRChatで体験できるのがドイツのミュンヘンオリンピック50周年記念の一環として作られた「Munich 72 by BR Next」です。こちらは順路に沿って進み、1972年に起こったミュンヘンオリンピック事件、イスラエルのスポーツ選手たちに対するテロについて学んでいく、臨場感ある展示作品です。解説は英語とドイツ語の2言語です。


Munich 72 – München 72 by BR Next

このほか、VIVEPORTで観られる作品には、少女を主人公に温暖化で氷河に迫る危機を描いた「Once a Glacier」、英国でノンバイナリーのカップルが養子を迎えるに当たって直面した実話を元にした「Kindred」、第二次世界大戦のホロコースト生存者のトラウマを描く「Komez Alef O」があります。

また、2頭のイルカを操作して人類の都市の遺構が眠る海中を探査するアクションアドベンチャーゲーム「Jupiter & Mars」は候補作で唯一の、Meta Quest2対応の商業ゲームです。温暖化が進み、水没した地球が舞台という気候変動の要素がある点がこの部門で候補になった理由です。もともとは2019年にPSVR向けに発売されたタイトルですが、Quest2向け決定版としてリリースされたものが候補になりました。

ドキュメンタリー・エクスペリエンス部門、およびソーシャル・インパクト部門には、鑑賞者がなにかを忘れない、あるいは新たに学ぶためのコンテンツがそろっています。しかしドキュメンタリーとはいえ、その見せ方や解釈にはどうしても主観や演出が入りこむ余地があります。

これはもちろんVR体験に限らない話です。ホラーやアクションは、昔のゲームや映画よりずっと臨場感を獲得してきました。VR体験は、従来、彫像や文章や映画が果たしてきたことと同じ役割をになっているだけにすぎません――芸術は怒りや悲しみ、誇りを保全し、他の人に伝播させます。ただし、より没入感は強いです。

個人的には、その「威力」が高まる先に、少し懸念を覚えるところがなくもないです。今はまだ、インディーズ作品ばかりということもあり、そこまで「威力」は高くありませんが……。

それはそれとして、ヴェネチア映画祭がVenice Immersiveとして、そしてこのレインダンス映画祭がレインダンス・イマーシヴとして、映画の延長線にあるアートとして早速AR/VR/MR表現の才能の発掘を進めている点は見逃せません。

すでにコンテンツがありすぎて、何から体験すれば良いのかわからなくなってきていますから、こうしてベスト作品がキュレーションされるのはありがたいですね。表現者にも、技術者にも、アートや映画の鑑賞者にも、ぜひこの機会に色々観て回ってほしいと思いました。

公式サイトはこちら。
RAINDANCE EMBASSY VRCHAT — Raindance Immersive