【大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」】ソニーはなぜPC向けゲーム事業を強化するのか?2025年にはPCおよびモバイル向けタイトル数が半分弱に –

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ソニー・インタラクティブエンタテインメント 社長兼CEOのジム・ライアン氏

 ソニーグループのゲーム事業を担うソニー・インタラクティブエンタテインメントは、PC向けゲーム事業を強化することを明らかにした。

 2022年5月26日に開催した2022年度事業説明会において、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのジム・ライアン社長兼CEOは、2019年度実績では1割以下だったPC向けゲームのタイトル数を、2025年度には約3割程度にまで拡大することを公表。ここに2022年度以降に事業を本格化するモバイル向けゲームを加えて、半分弱の構成比にまで高める。PlayStation向けタイトル数は半分強になる。

 そして、PC向けゲームタイトルの売上高は、2022年度には、前年比3.8倍となる3億ドル以上に引き上げる計画も打ち出した。

 ライアン社長兼CEOは、「2025年度までにリリースする新作タイトルのほぼ半分がPCおよびモバイルになる」とし、「これまでの歴史において、最も劇的な変化になる。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのビジネス構造を変革するものになる」と位置づけた。

 では、なぜ、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、PC向けゲームタイトルを増やす方向に舵を切るのだろうか。

2022年度はPC向けタイトルの売上高を3.8倍に

 まずは、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのPC向けゲームビジネスの現状を見てみよう。同社は、毎年のようにPC向けゲームのビッグタイトルを発売している。

 2020年8月に発売した「Horizon Zero Dawn」は、2022年3月までに239万8,000本を販売し、売上高は6,000万ドルに達している。また、2021年5月に発売した「Days Gone」は85万2,000本を販売。売上高は2,270万ドルだ。さらに、2022年1月に発売した「God of War」は、わずか3カ月で97万1,000本を販売し、売上高は2,620万ドルに達している。

2022年1月に発売した「God of War」は市場から高い評価を得ている

 いずれも、PlayStation向けに比べると販売本数は10分の1程度ではあるが、それでもライアン社長兼CEOは、「最新の『God of War』についても、PCコミュニティからは高い評価を得ている」と、PC向けタイトルの実績に手応えを示す。実際、Metacritic Scoreでは93点という高評価を得ている。

 同社によると、2020年度は3,500万ドルだったPC向けタイトルの売上高は、2021年度には8,000万ドルへと倍増以上の伸びを記録。さらに、先にも触れたように、2022年度には前年比3.8倍となる3億ドル以上に一気に引き上げる。そして、2022年度以降も、PCタイトルの増加により、売上成長を維持させる考えを示している。

今後はPCおよびモバイルのタイトルを増加させる

ゲーミングPC市場の成長にフォーカス

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、PC向けゲームビジネスを拡大する理由はいくつかある。1つは、成長しているゲーミングPC市場の領域にまでゲーム事業を拡大させるという狙いだ。

PC向けゲームを大幅に成長させる計画を打ち出す

 ライアン社長兼CEOは、「これまでは、コンソールという制限されたゲーム市場でビジネスを行なってきたが、PCおよびモバイルにまで事業の範囲を拡大することによって、より大きな市場でビジネスができるようになる。そして、私たちのゲームを楽しむ人たちを増やすことができる」とする。

 さまざまな調査において、国内外のゲーミングPC市場が拡大することが示されている。しかも、その成長率は年平均で2桁台と極めて高い。成長市場に向けてコンテンツを横展開することで、ビジネスを拡大するというわけだ。

ライブサービスゲームを本格拡大

PS5でもライブサービスの投資を加速する

 2つ目は、ライブサービスの広がりだ。ライアン社長兼CEOは、「2023年度以降は、ライブサービス戦略により、PC向けの売上高を大幅に増加させたい。この分野に対して、正しい知識を持ち、正しく実行すれば、大きな成長の機会につながる」と語る。

 ライブサービスへの取り組みは、ソニーグループ全体での重要な取り組みの1つだ。

 PlayStation Studiosでは、MLB The Show 22をライブサービスゲームとして提供を開始しているが、2022年度にはライブサービスゲームを3タイトルに増加。さらに、2025年度までに12タイトルのライブサービスゲームを市場投入する計画を明らかにしている。

 ソニーがライブサービスに力を注ぐ理由は大きく2つある。

 1つはライブサービス市場の急拡大が見込まれている点だ。IDGコンサルティングの調査によると、ゲーミングのカテゴリ別市場成長規模は、コンソール向けパッケージソフトウェアが2021年の110億ドルから、2025年には70億ドルへと縮小するのに対して、ライブサービスが含まれるデジタルアドオン分野は、150億ドルから240億ドルへと拡大。市場全体の約6割を占めると予測されている。

 成長市場をしっかりとキャッチアップする狙いがあり、PlayStation 5の事業戦略でもここにフォーカス。2019年度実績は12%に留まっていたライブサービス向け投資を、2025年度には55%にまで引き上げる計画だ。ライブサービス市場の急拡大は、最優先で対応すべき、見逃せない動きとなっている。

 もう1つの狙いは、ライブサービスが、ソニーグループが持つIPを幅広く活用できる場になるという点だ。

ライブサービス上でソニー・ミュージックのアーティストが相次いでライブを行なっている

 ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長 CEOは、「ライブサービスにより、ソニーミュージックのアーティストがゲーム空間の中で、すでに多くのライブパフォーマンスを行なっている。たとえば、Fortniteは、ゲームをプレイするだけでなく、時間と空間を共有でき、アーティストにとっては、ゲームが新たな表現の場になり、ゲーム以外のIPの価値も高めるライブネットワーク空間になっている」としながら、「ライブサービスは、新しいライブエンタテインメント体験の創出に向けた取り組みを強化していくことで、ソニーグループが持つ映画や音楽、アニメといった多様なエンタテインメント事業と、長年取り組んできたゲーム技術が融合し、クリエイターとユーザーがつながるライブネットワーク空間を実現し、新たな感動体験を創出したい」と語る。

ソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長 CEO

 ソニーグループは、グループ間の連携により、IP価値の最大化を図っており、ライブサービスは、その戦略とも合致する。
たとえば、「鬼滅の刃」では、原作コミック作品を、ソニーグループのアニプレックスがTVアニメ化し、2019年のTV放送開始時に、マンガファンからアニメファンにまで支持を広げ、2020年の劇場公開により、より幅広いファン層を獲得。歴史的ヒットとなった劇場公開の勢いを維持しながら、音楽、ビデオ、ゲーム、グッズへと展開。アニメと映画の主題歌はソニーミュージックのアーティストであるLiSAさんが歌った。

ソニーグループのリソースを活用してIP価値の最大化を図った「鬼滅の刃」

 また、新TVシリーズや海外展開といった形で事業を拡大した。1つのコンテンツをグループのリソースを最大限に活用した事例と言える。

 人気ゲームをもとにした大型長編映画である「Uncharted」は、約4億ドルの興行成績をあげており、その成果をもとに、PlayStationと連携した映画およびTV番組プロジェクトは、「The Last of US」、「Twisted Metal」、「Ghosts of Tsushima」など、10タイトルが進行しているという。

 ライブサービスも、同様にIP価値の最大化の取り組みの中で、重要なツールとなる。

人気ゲームをもとにした大型長編映画である「Uncharted」

 ゲーム事業の拡大だけでなく、ソニーグループの音楽、映画、アニメなどのIPが、ライブサービスを通じて広がることになるからだ。

 ソニーグループでは、将来、DTC(Direct to Consumer)の強化によって、全世界の10億人とつながる壮大な目標を掲げている。ライブサービスは、そのための重要なツールになるだろう。

 そして、マルチプラットフォームが前提となるライブサービスゲームは、PC環境にも展開されることになる。PC向けゲーム事業拡大と、ライブサービスの拡大といった目標は、同じ線上にあるのだ。

メタバースにも力を注ぐソニーグループ

 もう1つ付け加えておきたいのが、ソニーグループでは、今後、メタバースへの本格展開も視野に入れており、その取り組みも、同じ方向の文脈で語ることができるという点だ。

 吉田会長兼社長 CEOは、「メタバースにはいくつかの種類がある。人同士のコミュニケーションをベースにしたメタバースや、NFTなどの経済圏を中心にしたメタバース、デジタルツインなどのインダストリーメタバースなどである。ソニーグループは、これらとは異なり、エンタテインメントからメタバースを考え、ゲームやスポーツなどを切り口にしたいと思っている。特に、ゲームという観点では、メタバースにおいてもビジネスモデルができあがりつつある。また、ライブサービスを展開できる土壌もここで生まれている」とする。

 すでにソニーグループが取り組んでいるメタバースが、英プロサッカー プレミアムリーグのマンチェスター・シティFCとの協業によるバーチャルファンエンゲージメントの実証実験である。さらに、全豪オープンやイタリアのプロサッカーリーグ セリエAで判定支援などにも使われているHawk-Eyeを活用し、リアルの映像をもとに忠実に再現したバーチャルコンテンツにより、新たなユーザー体験の創造にも取り組んでおり、これもメタバースの世界の実現につながっている。

マンチェスター・シティFCとの協業によるバーチャルファンエンゲージメントの実証実験

 そして、ソニーグループのメタバースへの挑戦において、PCへの対応は重要な要素の1つになるというわけだ。

買収戦略から見えるPC対応への本気度

ソニーグループによる買収および出資

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントが、PC向けゲーム事業を拡大するための準備は着実に進められてきた。それは、ゲーム分野における買収戦略からも明らかだ。

 ソニーグループでは、PlayStation Studiosの強化に向けて、積極的な買収を行なっており、この1年間だけでも約10社の買収および出資を行なっている。

また、これ以外にも、Fortniteを展開している米Epic Gamesに対して、2020年の2億5,000万ドル、2021年の2億ドルの出資に続き、新たに10億ドルを出資することを発表している。

 こうした動きの中で、PC向けゲーム事業の拡大に直接的な影響をおよぼすのが、2021年7月に買収したオランダのゲームスタジオであるNixxes Softwareである。

PlayStation Studiosの数多くのスタジオがある

 同社は、PCへのゲーム移植で実績を持つ企業であり、ソニーグループの吉田会長兼社長CEOは、「PlayStation Studios のすべてのスタジオを対象に、PCへのゲーム移植を、技術面から横断的に支えることになる」とする。

 そして、「今後も、マルチプラットフォーム対応や新規IP開発、アドオンコンテンツによるサービス強化を目的に戦略投資を積極的に進めていく」と述べている。

 Nixxes Softwareの存在が、PC向けゲームタイトルの拡大を加速するのは明らかだ。

ライブサービス強化に向けた大型買収も

戦略的買収として注目される米Bungie

 もう1つの重要な買収が米Bungieである。Bungieは、「Halo」や「Destiny」などの大ヒットタイトルを投入してきた実績があり、900人を超えるクリエイティブ人材を擁している。

Bungie買収の狙い

 ソニーグループ 副社長兼CFOの十時裕樹氏は、「Bungieは、ライブサービスの成長性に早い時期から着目し、この機会を捉えて、Destinyにライブサービス機能を取り込み、この分野での豊富な経験と高い技術を持っている」と前置きし、「これまでにも協業の可能性を追求してきたが、両社が持つクリエイティブ領域での強みや、企業文化の融合を通じ、さらなる成長ができるとの確信が得られたため、買収を進めることになった。Bungieはソニー・インタラクティブエンタテインメント傘下においても、独立したスタジオとして、プレイステーション以外のプラットフォームも継続的に展開していく。また、Bungieが持つライブゲームサービスの知見や技術をグループ内に取り込み、PlayStation Studiosの各社が制作するゲームIPにも活用していく狙いがある」とする。

ソニーグループ 副社長兼CFOの十時裕樹氏

 吉田会長兼社長 CEOも、「Bungieの経営陣から、ライブサービスはユーザーとともにインタラクティブにゲームを開発していくことが大切であるということを教えてもらった。これは、ソニーグループが足りていない部分でもある。Bungieからライブサービスを学び、これを、PlayStation Studiosが計画しているライブサービスゲームの品揃えにつなげたい」とする。

Bungie「Destiny」によるライブサービスで成長

 さらに、「Bungieの買収は、マルチプラットフォーム展開の成長機会を生むことになる。プレイステーションプラットフォーム以外での新たなユーザーの獲得と、エンゲージメントの向上を進めることで、ソニーグループが掲げているゲーム事業のエコシステムのさらなる拡大という長期的な成長戦略を前進させることができる。Bungieの買収を起爆剤として、自社制作ソフトウェアの成長を加速させてきたい」(ソニーグループの十時副社長兼CFO)とする。

PC業界との距離を縮めるソニーグループ

 ソニーグループでは、PlayStation Networkユーザー向けのサービスとして、PlayStation Now on PCをすでに提供。PS Nowのゲームコレクションのすべてを、Windows PCでストリーミングし、数100本を超えるゲームをオンデマンドに利用できるようにしている。

 だが、ソニーグループの経営トップの発言を聞くと、今後は、こうした動きだけでなく、より本腰を入れて、PC向けゲームに取り組む姿勢が伝わってくる。そして、そこではライブサービスゲームやメタバースが重要な鍵になる。

 いずれにしろ、今後、PlayStation Studiosから、数多くのPC向けゲームが登場してくることは、PCユーザーにとってはうれしいことに変わりない。

 2014年にVAIO事業は切り離して以降、PC業界との関わりが薄かったソニーグループが、PC業界との距離を少しずつ縮めはじめたとも言えそうだ。