Peter Moore氏,スポーツの未来とゲームの歴史を語る –

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Unityのエグゼクティブが,エンジンメーカーの新しい放送技術と,ゲームはスポーツチームのように過去に頼ることができるのかについて語る。

 Peter Moore氏は,セガ,Microsoft,そしてElectronic Artsの幹部として,20年以上にわたってゲーム業界の一員であったことは間違いない。そして,子供の頃に大好きだったサッカーチーム,リバプールFCのCEOになるチャンスを得て,スポーツの世界へと旅立った(関連英文記事)。

 リバプールが大きな成功を収め,プレミアリーグで優勝した3年間ののち,Moore氏は退任し,Unityの役員(関連記事)とモバイルパブリッシャNifty Gamesの取締役に就任して(関連英文記事),ゲーム業界に戻ったかのように見えた。

 しかし,GamesIndustry.bizの取材に対し,Moore氏は,Unityの上級副社長兼スポーツライブエンタテインメント担当ゼネラルマネジャーとしての立場を,実際にゲームの世界にいるとは考えていないようだ。

 「私はもはや直接的なゲーム業界にいるわけではありません」とMoore氏は語る。「私は,ゲームの技術を利用して,スポーツに進出しています」

 それにもかかわらず,氏はゲームを「我々の業界」と呼ぶことがある。これは矛盾した言い方ではなく,彼が2つの分野の未来をどれほど密接に考えているかの証拠だと考えていいだろう。

 だからこそ,彼は明日,Leaders Week Londonのメインステージに登場し,スポーツカンファレンスの聴衆に向けて,ゲームテクノロジーが「スポーツの未来の現実」をどのように形成するかを語るのだ。

 Moore氏は,Unityが「スポーツの参加,制作,消費,収益化の次の進化を促進するリアルタイム3Dスポーツエンジン」として提供しているMetacastのデモンストレーションで,その意味を説明してくれた。

 Moore氏は,不気味の谷から抜け出したようなUFCの試合の映像を使ってそれを披露した。Georges St-PierreとKevin Leeの試合では,最新のUFCビデオゲームとは明らかに違う,説得力のあるリアルな2人のファイターの映像が使われている。しかし,彼らが戦っているオクタゴンは虚空に存在しており,彼らのリアルな表現は世界に貼り付けられた感が目立っている。

Metacastは,3Dゲームの技術とUFCファイターの試合中の顔を融合させたものである
Peter Moore氏,スポーツの未来とゲームの歴史を語る

 しかし,その後,カメラはファイターの周りを旋回し,一時停止して,ファイターの1人からの一人称視点など,従来のテレビ放送では不可能なさまざまな角度から打撃や組技を映し出す。

 Moore氏の説明によると,選手の映像は,RGBと赤外線のカメラを選手の周囲に配置し,Unityの技術ですべてのデータを3D環境に推定するボリューメトリックキャプチャを用いて作成されているという。

 スポーツ中継で3Dを使った演出が目立つようになって久しいが,MetacastのUFCの試合は今までよりも一歩進んだ印象を受けた。

 続いて,ラグビーワールドカップでも同じような処理が行われ,試合中に一時停止して,選手がどこにいて,どこに向かっているかを示すファミリーサーカスのような軌跡線が表示される。その間にもMoore氏は,視聴者が好きな選手の靴をハイライトしてすぐに購入できるなど,Metacastが提供する機会をアピールしている。

 これは,Massive,IGA Worldwide,Double Fusionなどの企業が,ビッグブランドをゲームに提供することで,ゲーム業界に革命を起こすことを約束した,00年代半ばのダイナミックなゲーム内広告の推進を思い起こさせる。Microsoftは,2006年に数億ドルを投じてMassiveを買収したが(関連英文記事),4年後に同部門を閉鎖した(関連英文記事)。IGA WorldwideとDouble Fusionも,その直後に姿を消している。

今でもゲーム内広告には多くのお金が使われています。しかし,スポーツはまったく別物です。スポーツの広告には,年間400億ドルから600億ドルが費やされているのです

 Moore氏はMassive買収時にMicrosoftに在籍していたが,ゲームではその期待に応えられなかったのに,なぜスポーツではこのようなインタラクティブな広告が有効なのかを聞いてみた。

 「私にはEAでゲーム内広告の仕事をしている2人の娘がいるのですが,今でもゲーム内広告には多額の資金が投入されています」とMoore氏は指摘する。「しかし,スポーツはまったく別の話です。スポーツの広告には,年間400億ドルから600億ドルが費やされていると言われています。我々がやっていることは,ゲームの世界とスポーツの現実世界を,この技術で融合させブレンドすることです」

 「リバプールのCEOとして,約5億ドルのスポンサーシップと広告費が支払われました……。視聴者がいるからこそ巨大なのです。UFCは何百万人もの人がリアルタイムで見ています。そして,(Metacastのデモで選手を)タップできるということは,広告主と対話し,その広告をリアルタイムで販売につなげることができるということを示しています。我々のビデオゲームではできなかったことです。昔はできませんでした」

 Moore氏は,この技術が最初はパフォーマンス分析やスポーツ中継で使われることを期待している。

 「最初は,ハーフタイムや試合後に3Dを使って分析することになるでしょう。しかし,それも時間の問題です。なぜならば,技術は存在し,将来的には5Gや6Gにつながるパイプも存在するからです」とMoore氏は語る。

UnityのPeter Moore氏
Peter Moore氏,スポーツの未来とゲームの歴史を語る

 もちろん,それだけではない。

 「私は賭け事には詳しくありませんが,この世界のFanDuelsやDraftKingsがそのデータを吸収し,自分たちのビジネスモデルに活用していることは知っています」とMoore氏は語る。

 さらにMoore氏は,高校の体育館でバスケットボールの練習をしている子供たちの映像を見せながら,コーチがこのツールを使って若い選手に即時のフィードバックを与え,ゲームの理解を深めることができると述べ,Metacastのより崇高な使い方を想定していることを示した。

 現在の技術には限界があり,それはMoore氏が別のスポーツへと切り替えていくにつれて明らかになっていった。最も印象的だったのはUFCのデモだが,たった2人の選手をさまざまな角度から追跡するという,間違いなく最もシンプルなものでもあった。一方,ラグビーワールドカップの試合は,30人の選手とそれに伴う手足の動きを常に把握しなければならないコンタクトスポーツであり,Metacastにはより困難な課題が課せられる。

 「ええ,オクルージョン(※見えない部分)が問題です」とMoore氏は認める。「UFCでは,レンダリングツールを使ってオクルージョンを解消しています。しかし,私が過去30年以上携わってきたどの技術もそうですが,進化していくものです。この種の技術にはMooreの法則がすぐに適用されます。スタジアムに設置するカメラの数を減らし,8K,10Kカメラの品質を向上させます。1秒間に500万個のボクセルを動かすことができます」

 ゲーム技術をスポーツに応用することは,Moore氏にとって身近なことだ。Moore氏は,リバプールでの経験から,スポーツ界がゲームから学ぶことがいかに多いか,とくに世界中の観客を取り込むことのメリットについて学んだと語る。

 「リバプールは巨大なクラブです。世界の隅々まで4億人のファンがいます」と氏は語る。「24時間365日,どうやって彼らを魅了するか。サッカーの試合は週に1,2回,90分間しか行われません。しかし,コンテンツへの渇望,情報への渇望,トレーニングやインタビューを見たいという渇望があります……」

 ゲームがスポーツから学べることとして,スポーツが過去を利用して現在と未来への関心を高めていることについてMoore氏に尋ねてみた。

セガにいたとき,我々はソニック・ザ・ヘッジホッグを可能な限りさまざまな方法で活用しました。しかし,ゲームの動きはとても速いのです

 「1892年に設立されたリバプールは,歴史や遺産,ノスタルジーをテーマにしたマーケティングを行っていました」とMoore氏は語る。「今では現代的なチームとして成功していますが,我々は先人の成果の上に立っており、ファンがその遺産や歴史を求めていたので,歴史を受け入れたのです」

 「ゲームの場合,テクノロジーの進歩により,過去に戻ることは困難です。私がセガにいた頃,我々はソニック・ザ・ヘッジホッグを可能な限りさまざまな方法で活用していまっした。しかし,ゲームの進歩はとても速いのです」

 Moore氏の目から見た大きな問題点の1つは,企業が現代の技術を使って大切な知的財産を常に再構築しなければならず,その結果,人々が愛したものとはまったく違うものになってしまうということだ。任天堂を筆頭に,うまくやっている企業もあるが,すべてのパブリッシャがこれほどまでに歴史に頼れるわけではない。

 Moore氏は,「Xboxであれば,初代Haloに戻ることができるかもしれません」と提案する。「しかし,実際にはIPが重要なのです。リバプールでは,アーカイブをさかのぼり,1930年代のゲームの映像を見せると,人々はその映像を気に入ってくれました。暖かな気持ちを利用したのです。私が初めてアムフィールドに行ったのは1959年のことでした。4歳のときに父に連れられてリバプールの試合を見に行ったのです。そして40年前にアメリカに引っ越しましたが,私の人生はリバプールの勝敗などと照らし合わせることができるのです」

 ゲームにはそれがある程度可能だ,と彼は付け加える。先月,彼はTwitterでドリームキャストの発売22周年について投稿し(参考URL),フォロワーの共感を得た。

 「SoulCalibur,Sonic Adventures,Ready 2 Rumble,Hydro Thunder,TrickStyleなどに戻ると,みんなが意見を言ってくれるんです」とMoore氏は語る。「私のTwitterアカウントは,こうした温かい思い出でいっぱいになります。しかし,スポーツとの関連では,時間軸が非常にタイトです。PlayStationの時代になってから,大きなビジネスになったのは30年前です」

 この時間軸は,年を追うごとに明らかに広がっていく。しかしMoore氏は,プロスポーツのようにゲームがその過去を真に生かすことができるかどうかについて,懸念を抱いている。

 「昔のゲームにノスタルジーを感じて,戻ってプレイしてみたら『えっ,覚えていたのと違う』ということにならないか少し心配です。我々は,ゲームで少し苦戦しているように思います。企業が昔のゲームをミニデバイスにまとめているのを見ると,うまくいっているように見えますが,我々の業界は動きが早すぎると思います」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら